[徒然雑感] “誤差”と“語差”(フミさんのおはなし①)
フミさん(仮名)は、大正4年8月8日生まれの女性。「私は今年で95歳。8月8日、パーパー生まれ。パー(数字の8)がふたつもある」---。
そんなフミさんのもとに、離れて暮らす孫娘が久しぶりに顔を出した。ところが会えただけで内心、嬉しくてしかたがないのに、いつものように一言も二言も多くて孫を怒らせている。しかし、傍らにいる者にとっては、二人のやり取りは漫談並みに可笑しい。
孫の帰省は友人の結婚式の参列ということが多い。フミさんは、すでに三十路を迎えた孫の婚期が気になるらしく、帰省の度に「相手は居ないのか。」「誰も貰ってくれないのか。」「何が原因なのか。」を問い詰めるので孫は嫌がる。孫は孫で、「貰ってくれないのではなくて、私には選択権がある。今は、適齢期なんて結婚にはない。」とか理屈で言い通している。「この次の帰省はいつになるの?私はあんたの花嫁姿を見るまで死ぬに死ねないよ。皆さんにご迷惑をかけているのは私じゃなくてあんたよ。」
内閣府の調査でも、"20代の男女が子どもはいらない"、"結婚はしなくても良い"と考えている傾向は強い。結婚も子どもを生み育てることも個人の自由とは言え、少子化の先行きは明るくない。
ふみさんが「今回は誰の結婚か。」と孫娘に問い出した。「昨年、アラコンした裕子ちゃんの出産のお祝いよ。」「えっ?!アラコン?ブリのアラと大根は相性がいいところから相思相愛の結婚を今じゃそう言うのかね。」「違うよ、お祖母ちゃん、時代遅れ!!アラ婚って言うのはね、式を挙げずに色々な衣装や髪型をして凝った写真だけを撮るのをアラカルト婚というの!略してアラ婚!!」これにはお祖母ちゃんならず、傍にいた者も大きく頷かされた。
「お祖母ちゃん、この他にも、アラフォーとかアラカンとか言う言葉もあるのよ。」すかさず、お祖母ちゃん「私も知っているよ、それ位。へぇ、今の若い人達がアラカンを知っているなんて驚きだね。アラカン、本当にいい男だった。強きを挫き、弱きを助ける、胸のすくような俳優だったよ。」何のことはない。お祖母ちゃんの脳裏には嵐勘十郎が浮かんでいた。
ちなみに、アラカンとは"アラウンド還暦"、アラフォーは"40歳周辺"を意味するらしい。しかし、時代の違いがこうも"誤差"ならぬ"語差"を生んでいるとは驚くことばかりである。
誰の川柳だったか忘れたが、こんなのがあった。
「 息子は耳に 父は胃に 穴をあけ 」
財団法人 人権教育推進啓発センター 発行
月刊誌「アイユ」2月号掲載