学術研究トピックス
【薬学科】野嶽勇一講師が「森永奉仕会賞」を受賞!!
薬学科生化学研究室の野嶽勇一講師が、公益財団法人森永奉仕会より平成24年度の「森永奉仕会賞」を授与されました。より豊かな食生活の実現を命題とした「タンパク質コンジュゲートの創製技術の導入による新規アレルギー軽減化牛乳・乳製品の開発」に関する研究成果に対する表彰です。本研究成果は、九州大学の山﨑信行名誉教授および福元彰一氏、本学科の榊原隆三教授との共同研究によって得られました。
食物アレルギーの患者数は年々増加傾向にあり、なかでも、牛乳アレルギーは乳幼児を中心とした高い発症数や深刻な重篤度から特に問題とされています。従来の牛乳のアレルギー軽減化処理においては、アレルギーの原因となる抗原タンパク質を対象として、それらの除去、タンパク質分解酵素による断片化、あるいは加熱処理による変性、などを介して、アレルギー反応を抑制したり抗体に対する親和性を低下させたりしてきました。しかしながら、これらの処理の場合、牛乳の栄養価や風味(呈味性)が著しく損なわれてしまうという新たな問題が生じることから、牛乳アレルギーへの対策としては決め手に欠けており未だ十分とは言えません。そのため、牛乳アレルギーに苦しむ乳幼児・小児やその親にとっては、安心して摂取できる、かつ、おいしい牛乳(乳製品)の登場が切望されています。
野嶽講師らの研究は、「呈味性に問題を抱える従来のアレルギー軽減化処理に代わる新規アレルギー軽減化手法の構築」に端を発しており、アレルギーの原因となる抗原タンパク質を糖鎖と結合させてコンジュゲート化し、その免疫原性の軽減を図ろうとしたものです(図)。
これまでの研究から以下の①~④の新技術・知見が得られており、牛乳アレルギーの現状を打開するための画期的な手法が高く評価されました。
①穏和な条件下でタンパク質のアミノ基と特異的に結合するデキストランの活性化誘導体を開発した点。
②デキストラン活性化誘導体を用いて、牛乳の主要抗原の一つであるβ-ラクトグロブリンとの新規の糖鎖-タンパク質コンジュゲートを創製した点。
③β-ラクトグロブリンに導入されたデキストラン活性化誘導体は、エピトープ被覆作用によって抗体との反応性の抑制、生体内での抗体産生能の抑制、および消化酵素の作用に対する耐性の向上、などに寄与しており、その結果、新規コンジュゲートの免疫原性は著しく軽減することを明らかにした点。
④新規コンジュゲートを酵素消化や加熱処理しても、苦味の発生が緩和され呈味性が顕著に改善されることを明らかにした点。
野嶽講師らの今後の研究によって本手法がさらに洗練された場合、将来的にはアレルギー完全フリーの牛乳の調製が可能になると考えられます。
今回の受賞に対して野嶽講師は、「本研究成果には、牛乳アレルギーのみならず食物アレルギー全般に対する応用に繋がる可能性が秘められていると考えています。アレルギーに苦しむ多くの子供たちに“より安全でよりおいしい牛乳”を提供することを目標に、今後も情熱を持って真摯な姿勢で研究に取り組んでいきたいと思います。これまでご指導・ご支援いただきました方々に心より深く感謝申し上げます。」と受賞の喜びと今後の抱負を語りました。
◆ 野嶽勇一 講師
九州大学大学院農学研究科博士後期課程を修了後、理化学研究所播磨研究所(SPring-8)および国立循環器病研究センターでの研究生活を経て、2006年より長崎国際大学薬学部薬学科生化学研究室に所属。現在、「乳酸菌生産物質がもたらす保健効果の解明」や「美肌菌を活用した新しいスキンケア法の開発」など、ヒト常在菌が示す有用な生理活性を我々の健康増進に活用するための研究に取り組んでいる。日本農芸化学会西日本支部奨励賞(2011年)、日本食生活学会奨励賞(2012年)、そして本賞を受賞するなど、所属する研究分野において注目を集める研究者である。
※ 生化学研究室ホームページはこちら
◆ 公益財団法人 森永奉仕会
乳幼児の健康と栄養に関する研究、調査およびこれに関連する乳製品等の品質改善に関する研究、調査に対し助成を行い、その成果をもって公衆衛生の向上に寄与することを目的としている。