学術研究トピックス
【薬学科】藤田教授の「MARCH8によるエイズウイルス(HIV-1)感染抑制の分子機構に関する研究」が「Nature Medicine」電子版に掲載されました
長崎国際大学薬学部・機能形態学研究室の藤田英明教授は、国立感染症研究所・徳永研三博士を中心とする共同研究において、膜結合型ユビキチンリガーゼMARCH8(Membrane-associated RING-CH 8)がエイズウイルス(HIV-1)感染を抑制する新規宿主因子であることを見出しました。
HIV-1をはじめ多くのウイルスは、宿主の細胞に感染した後、細胞内で複製することで宿主に傷害を与えながら、周囲の細胞や更には他の個体へと感染を広めていきます。宿主細胞には感染を抑えるための様々な抗ウイルス宿主因子が存在します。一方、ウイルスにはその宿主因子の機能を阻害するタンパク質が存在しています。ウイルスと宿主細胞の間には分子レベルでの闘いが常に繰り広げられています。
ある種のウイルス粒子表面には、宿主細胞に効率良く感染するために必要な膜タンパク質(エンベロープ; Env)が存在します。HIV-1は細胞内でEnvを合成、細胞表面でウイルス遺伝子・タンパク質を含む複合体と会合して、新しいウイルス粒子を形成、細胞から出芽していきます。
本研究ではMARCH8が細胞表面のEnvの量を減少させることで、ウイルス粒子へのEnvの取り込みを阻害、ウイルスの感染効率を減少させる新規の抗ウイルス宿主因子であることを世界に先駆けて発見しました。MARCH8は分化した骨髄系細胞(マクロファージ等)において発現増強が認められますが、MARCH8遺伝子をノックアウトしたマクロファージでは、感染性の高いHIV-1が産生されました。この結果はMARCH8が分化型の骨髄系細胞においてHIV-1に対する抗ウイルス宿主因子として機能していることを示しています。さらにMARCH8はHIV-1以外のいくつかのウイルスEnvに対しても同様な効果を示しました。これまでのところ、他の抗ウイルス宿主因子の場合と異なり、MARCH8の機能を阻害するウイルスタンパク質は見つかっていません。今後、MARCH8の機能発現機構を詳細に解析することで、ウイルス感染症に対する新しい治療薬の開発に繋がることが期待されます。
【著者】:Tada T, Zhang Y, Koyama T; Tobiume M, Tsunetsugu-Yokota Y, Yamaoka S, Fujita H and Tokunaga K
【論文名】“MARCH8 inhibits HIV-1 infection by reducing virion incorporation of envelope glycoproteins”
この研究成果は、国際科学誌「Nature Medicine」電子版に2015年11月2日付けで発表されました。なお論文へのリンクはこちらです「“MARCH8 inhibits HIV-1 infection by reducing virion incorporation of envelope glycoproteins”, Nature Medicine」。
研究者紹介:藤田英明
研究室紹介:機能形態学研究室