学術研究トピックス
【薬学科】福森良助教が第49回日本神経精神薬理学会一般演題奨励賞を受賞しました!
令和1年10月12-13日、福岡国際会議場で開催された第49回日本神経精神薬理学会において、薬学部薬物治療学研究室の福森良助教が第49回日本神経精神薬理学会一般演題奨励賞を受賞しました。
発表演題
「メタンフェタミン退薬後の認知機能障害発現における内因性カンナビノイドシステムの関与」
福森 良、太田 賢作、山本 経之、山口 拓
福森助教が所属する薬学部薬物治療学研究室では、“脳の科学”に焦点をあて、神経精神疾患の病態メカニズム解明および治療薬の開発を目指した研究、また脳内“大麻様物質(内因性カンナビノイド※1)”の生理学的・病態生理学的役割を明らかにする研究を推進しています。
覚せい剤(メタンフェタミン)は長期的に摂取すると薬物を退薬後(中断した後)に、統合失調症に類似した精神症状や認知機能の障害が引き起こされ、この障害は薬物を摂取していなくても持続することが知られています。今回の演題では、マウスにおけるメタンフェタミン長期投与後の退薬時に生じる認知機能の障害について、内因性カンナビノイドシステムに着目して検討した内容で発表を行いました。
マウスにメタンフェタミンを長期間(1ヶ月)投与して、退薬後の学習・記憶の能力である認知機能を行動学的実験で評価したところ、メタンフェタミンの退薬30日後でもマウスの認知機能が低下していました。また、この認知機能の低下には、カンナビノイドCB1受容体遺伝子欠損マウス※2やカンナビノイドCB1受容体拮抗薬※3を用いた解析から、内因性カンナビノイドシステムが促進的に関与していることが明らかとなりました。当研究室において、CB1受容体拮抗薬は認知機能以外にもメタンフェタミンによって誘発される行動異常を改善するという結果が出ています。これらのことから、メタンフェタミンなどの覚せい剤依存に伴って生じる精神機能障害の治療薬のターゲットとして内因性カンナビノイドシステムは有用な標的であり、特にCB1受容体拮抗薬は覚せい剤精神病の新たな治療薬候補となることが期待されます。
用語の説明
※1 内因性カンナビノイド
大麻の作用と類似した性質を有し、脳内に存在する物質で、アナンダミドと2-アラキドノイルグリセロールの2つが知られています。内因性カンナビノイドはカンナビノイドCB1受容体という内因性カンナビノイドが特異的に結合するタンパク質を介して神経伝達物質であるグルタミン酸やGABAなどが神経細胞から放出されるシステムを抑制し、食欲、記憶、痛覚、情動機能などの制御に関わっています。
※2 カンナビノイドCB1受容体遺伝子欠損マウス
カンナビノイドCB1受容体は、主に脳内に存在し、大麻の主用活性物質であるΔ9-テトラヒドロカンナビノールや内因性カンナビノイドの標的分子です。CB1受容体遺伝子欠損マウスは、遺伝子改変技術によりCB1受容体のタンパク質が発現しないように、そのタンパク質をコードする遺伝子が欠損している動物です。
※3 カンナビノイドCB1受容体拮抗薬
カンナビノイドCB1受容体拮抗薬は、Δ9-テトラヒドロカンナビノールや内因性カンナビノイドがCB1受容体に結合しないようにCB1受容体を遮断する薬物です。現在は使用されていませんが、過去にリモナバン(SR141716A)というCB1受容体拮抗薬が食欲抑制、抗肥満薬として主にヨーロッパで使用されていました(日本やアメリカでは未発売)。本研究では、AM251というCB1受容体拮抗薬を使用しました。このAM251によってCB1受容体を遮断すると内因性カンナビノイドの働きが抑えられ、内因性カンナビノイドが関与していることを証明することが可能となります。