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学術研究トピックス

【学術研究】シグナルペプチド配列をもつ異例のガレクチン、国際共同研究によりカイメン動物に発見

Marine Drugs、BBA Advances誌に発表

 長崎国際大学大学院薬学研究科准教授 藤井佑樹、川嵜達也、教授 小川由起子、藤田英明のグループは、J-GlycoNet共同研究として2024年に本学を訪問したトリエステ大学准教授 マルコ・ゲルドル 博士 (イタリア) (Fig 1) 2 、および、鎌田健一 (日本大学)、ビシュヌ・パダ・チャタルジー (チャタラジアン国立がん研究所、インド)、イムティアジ・ハサン (ラジャヒ大学、バングラデシュ)、大関泰裕 (横浜市立大学) 博士らと国際共同研究チームをつくり、海綿動物がもつガレクチンの一次構造 (アミノ酸配列)を決定して、従来のガレクチンの定説とは異なる新たな特徴を発見しました。本成果は国際学術雑誌Marine Drugs3 とBBA Advances4に発表しました。

ポイント

  • 海綿動物ナンコツカイメンから6種の新規ガレクチンを発見し一次構造を決定した。
  • それらの全ては、タンパク質が細胞外へ分泌されるための「シグナルペプチド配列」を持つことが確認された。
  • これまでガレクチンには、シグナルペプチド配列は存在しないことが定説であったが、特定の海綿動物には、それが存在することが証明された。

研究概要

 レクチンは生物やウイルスに存在する糖鎖結合性タンパク質で、1888年の初報告以来、ぼう大な種類の分子が解明されてきました。「ガレクチン」は、動物と菌類に存在する代表的なレクチンファミリーのひとつで、β-ガラクトシド構造をもつ糖鎖と結合し、細胞接着や細胞死を起こします。海綿は、進化系統において最も原始的な動物で、動物の共通祖先に近いと考えられています。そのため海綿のガレクチンを研究することで、ヒトに至るまでのガレクチンの構造や機能の変遷、進化過程を知る手がかりを得ることが期待されます。

 2万種以上もの構造が解明されてきたレクチンですが、海綿動物のレクチンで構造の解明されたものは、2025年現在まだ10種類程度でした。研究チームは、オーストラリア原産で、現在は日本沿岸に生息するナンコツカイメン(Chondrilla australiensis)(Fig 2)と、日本原産のクロイソカイメン(Halichondria okadai)(Fig 3)の転写RNAの全解析5、エドマン分解によるアミノ酸配列の部分決定を組み合わせることで、それぞれのガレクチンの一次構造を決定しました。両者の配列を比較すると、クロイソカイメンガレクチン(HOL-30)は、従来型のシグナルペプチドをもたない構造であったのに対し(Fig 6)、ナンコツカイメンから見つかった6種のガレクチン(hRTL [読み方:ハートル])には、全て23アミノ酸からなるシグナルペプチド配列が付加していることが判明しました(Fig 4,5)。

 多くの生物種でガレクチンは細胞外に分泌され、細胞外で機能することが知られていますが、細胞外分泌のためのシグナルペプチド(N末端に位置する疎水性アミノ酸20個程度のクラスター)を持たないため、その分泌機構は不明です。シグナルペプチドをもつガレクチンの遺伝子情報は、これまでも線虫やごく一部の海綿など、無脊椎動物から例外的に報告されていました。しかしhRTLのように、シグナルペプチドをもつガレクチンの転写物が単一生物種から6種も発見され、そのタンパク質がレクチンとしての活性を持ち、さらにタンパク質として成熟した際に、シグナルペプチドが切断されていることが証明された例は初めてでした。これはナンコツカイメンでは他の生物種とは異なり、ガレクチンが小胞体・ゴルジ体などの細胞小器官を経て細胞外へ分泌され、共生細菌や病原細菌などとの相互作用に働くことを強く示唆します。このナンコツカイメンガレクチンが細胞外に分泌後、海綿動物のどこに局在しているのかを明らかにすることで、その機能に迫ることができると考えられます。海綿動物は海の生態系を維持する重要な動物であり、今後、生物間の相互作用をガレクチンと糖鎖の関係から研究することで、海洋環境保全の新たな方法に活かせる可能性もあります。

 一方、ヒトにはシグナルペプチドを持つガレクチンは存在せず、主に細胞質に存在しており、真の機能はまだ不明です。加えて特定のヒトガレクチンの転写は、がん化により増加するものもあり、腫瘍診断マーカーへの利用の可能性があります。

 本研究に続き、このナンコツカイメンガレクチンのシグナルペプチドが進化上いつ失われたか、あるいは突然変異や遺伝子の水平伝搬などで獲得したのか、その変遷をたどることで、動物の祖先から最も遠い動物であるヒトのガレクチンの役割の一層の理解や医薬応用の可能性が期待されます。

 本学の国際共同研究をさらに進め、シグナルペプチドを持つガレクチンの細胞小器官内での輸送と分泌経路を明らかにし、ガレクチン機能の一層の解明と利活用、糖鎖研究への発展に役立てて行きます。

研究助成および後援

J-GlycoNet 共同研究 24E026 (大関 共同研究先研究者:iGCORE 岐阜大学/リール大学 ヤン・ゲラルデル, Yann Guerardel)
23K06190 (藤井)、23K10950 (小川)、24K08716 (大関)
Interconnected Nord-Est Innovation Ecosystem (iNEST) the European Union Next-GenerationEU (PIANO NAZIONALE DI RIPRESA E RESILIENZA (PNRR)—MISSIONE 4 COMPONENTE 2, INVESTIMENTO 1.5—D.D. 1058 23/06/2022, ECS00000043 (ゲルドル, Gerdol)
横浜市トライアル助成金 YT2024-1050 (大関)
国際学術雑誌:マリン ドラッグス Marine Drugs
地域連携研究機関:西海国立公園 九十九島水族館 海きらら

リンク

  1. J-GlycoNet 共同研究
  2. 長崎国際大との国際共同研究・招待セミナー (2024年)
  3. 発表論文1 Novel galectins purified from the sponge Chondrilla australiensis: unique structural features and cytotoxic effects on colorectal cancer cells mediated by TF-antigen bindingl Marine Drugs 22, 400, 2024
  4. 発表論文2 Characterization of HOL-30: a novel tandem-repeat galectin from the marine sponge Halichondria okadai, BBA Advances 7, 100153, 2025 in Special Issue: A bridge over future glycosciences
  5. NCBI PRJNA1140828 (Chondrilla australiensis), BioProject: PRJNA1141218 (Halichondria okadai)
  6. 日本薬学会第145年会学生優秀発表賞を受賞
  7. NIU-uniTS-YCU team discovered unconventional structure of galectins with signal peptide sequences from marine sponges

問合わせ

准教授 藤井 佑樹 長崎国際大学大学院 薬学研究科 機能形態学研究室
Email: yfujii★niu.ac.jp (★ は @) 電話 : 0956-39-2020 (ex 3720)

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